チームのアウトプットを最大化し、チームメンバーが迷いなく前向きに開発できるようにリーダーがやるべきこと

4月は転職や組織変更に伴って、会社での役割が変わることの多い季節ですね。中には、チームをまとめたり、リードすることを期待されるようになった人もいるかもしれません。私もその一人です。

2年ほど業務委託として仕事をしていたROUTE06に先日入社し、フロントエンドチームをリードする役割*1を任せてもらっています。 『10人チームは7人分*2』という話があるように、チームの人数が増えたからといってチームのアウトプット量が線形に上昇することはないのですが、できる限り多くのことを達成できるチームを作っていきたいです。

とはいえ、気持ちだけではどうにならないのでいくつか本を読んでみました。その中で、私の「チーム」や「チームをリードする」ということの価値観を大きく変える出会いが2つあったのでこの記事で紹介します。私と同じようにリーダーの経験が浅い人の一歩目が少しでも軽くなれば嬉しいです。

なお、この記事で「チーム」と呼んでいるものは、一年以上の期間、ともに仕事をする人の集まりを指します。もっと短期間の場合は、この限りではないです。

タスクを並行に遂行するだけじゃないチームがあるらしい/Scaling People

最初に紹介するのは『Scaling People*3』です。この本は、Stripeの成長期(2014年から2021年ごろ、 従業員が200人から7000人になった時)に執行役員だったClaire Hughes Johnson さん(以後クレアさんと呼ばせてもらいます)が、自身のStripeでの経験を整理して、成長する組織、会社を作るための戦略がまとめられています。

私は、チームとは、「チームが達成すべきタスクを並行に遂行できれば十分」だと思っていました。ところがクレアさんによると、チームはそれ以上のことを達成できるようです。以下、私が感銘を受けた一文を引用します。まだ日本語訳が出版されていないので、訳は私が作りました。

「チーム」と呼ばれるものの多くは、並行して仕事を進める個人の集団に過ぎません。そのような集団は、おそらく多くのことを成し遂げているのでしょうが、チームとして、より優れた成果を上げる集団にはなりえません。(太字は筆者)

原文のニュアンスが抜け落ちているかもしれないので原文も紹介します。

Much of what people call "teams," however, are actually just groups of individuals parallel processing their way through work. Although those groups probably accomplish a lot, they never become a collective of people who achieve much more as a unit than they would as lone workers.

これには驚き、興奮しました。チームが目指す姿としてワクワクしました。リーダーは、タスクの調整やリスクマネージメントをして開発スケジュールが滞りなく進められれば十分(それも難しい)と思っていましたが、チーム開発にはもっと可能性が秘められていることを知りました。

しかしながら、多くのチームが「並行して仕事進める個人の集団」になっていることも事実で、「より優れた成果をあげる集団」になることは簡単ではないのでしょう。本の中では、いろいろなアイデアが紹介されていますが、今回は、私がまずやってみようと思ったものを紹介します。

チーム憲章を作る

クレアさんは本の中で「文章化することの重要性」を何度も説明しています。

チーム作りに関しても、まず「チーム憲章」という文章を作ることが推奨されています。「憲章」というのは聞き馴染みのない言葉ですが、ざっくりとは「重要な事を(多くは理想的な立場から)定めてある、おきてのこと」だと理解しておけば良いと思います。続いて、本の中から「チーム憲章」のことを説明している箇所を引用します。(引き続き私の考えた訳です)

私は、チーム創設のための追加文書として、「チーム憲章」を作成することを推奨しています。チームのミッションは、会社のミッションやバリューを踏襲し、それをサポートするもので、一般的に1~2文の長さになります。「チーム憲章」は、1ページほどの長い文書で、チームの目的を明確にする必要があります。

原文はこちらです。

I recommend that teams create an additional founding document: a team-charter. Team missions will follow and support the company mission and values, and they're generally one or two sentence long. A team charter is a longer document, maybe a page long, that should create clarity about the team's purpose.

チームの目的や使命は、チームを結成した時に口頭で説明されることは多いと思います。これは私の経験で私の意識が低いだけなのかもしれませんが、その場では、目的や使命がなんとなくわかった気になりますが、時間が経ったり、忙しくなると忘れてしまうことが多いです。

私の意識を上げていくことはもちろんですが、クレアさんが推奨するようにチームの目的や使命が文章としてまとめることが「より優れた成果を上げる集団」になるきっかけになるとも思います。会話では言葉以外のいろいろな方法で伝えようとしますし、伝わった気になりますが、文章は言葉や表現を何度も調整します。そうしてできた文章は、個々のタスクの達成だけではなくチームとして何を達成するのかを代弁するもう一人のチームメンバーのようになると思います。

本の中では、実際にStripeで使われていた「チーム憲章」が例文として紹介されています。他にもチームの成果を評価しフィードバックする方法や、より大きな組織を作るために必要なことなど、会社やそこにいる人々が成長するための方法論と、それがStripeでどのように使われていたかという実例がまとめられています。訳書がなく読むのに少し時間はかかりましたが、読んで良かったなと思っています。

寛容でありながらも毅然とした態度でのぞめ/The Art of Gathering

次に紹介するのは『The Art of Gathering*4』です。この本は、「サステインド・ダイアローグ(持続的な対話)」という手法で、集団での対話を導ける人材を育てるビジネスを長年されているPriya Parkerさん(以後、プリヤさんと呼ばせてもらいます)が「集まること」をこれまでと違う視点で見ることを願って書かれた本です。

前の本の紹介では、チームの可能性にワクワクしたり、「チーム憲章」という新しい言葉を知り、威勢のいいことを書いていたのですが、実は不安な気持ちもありました。「そんな張り切らなくても、周りの出方を見ながら問題になりそうなことをつぶしていけばいんじゃないか」と囁く声がありました。そんな不安を拭ってくれたのがこの本の第3章「Don't Be a Chill Host(裏方に徹するな)」です。一節を引用します。訳は訳書『最高の集い方*5』から引用しています。

Chill is a miserable attitude when it comes to hosting gatherings.

「自然体」は、集まりの主催者として最悪だ

プリヤさんによると、「人が集まる場を催した主催者が自然体でいるのは主催者としての責任を放棄している」ようです。集まりを主催するということは、裁量を持つということ。裁量を持っている人が、それとなく、敬意を持って、巧みに仕切ることが良い集まりには不可欠とのことです。

思い返してみると、裁量を持っている人がやるべきことをやらないチームやミーティングは退屈でした。当時はリーダーに不満がありましたが、いざ、自分がリーダーになると不安になるものですね。不満そうな顔していてごめんなさい。

しかしながら、「それとなく、敬意を持って、巧みに仕切ること」はなかなか難しそうです。プリヤさんは、もう少し具体的なアドバイスを続けています。

The kinds of gatherings that meaning fully help others are governed by what I call generous authority. A gathering run on generous authority is run with a strong, confident hand, but it is run selflessly, for the sake oh others.

「寛容でありながらも毅然とした仕切り」があると、参加者にとって意義のある集まりになる。具体的には、主催者が強い自信を持ち、ゲストを第一に考えるということだ。

これも難しそうですね。ただ、過去に自分が「自信があったこと」を思い浮かべて、どうして自信を持てていたのかと考えてみると具体的な行動につながっていきそうです。これは人によって様々でしょうが、私は情報収集やシュミレーション、リハーサルといった事前準備をやると自信を持つことができます。つまり、チームの行動に影響しそうな情報を集め、チームが遭遇するであろう問題をシュミレーションしたり、その時に自分がどういう行動を取り得るかをリハーサルすると良さそうです。

ゲスト(参加者)を第一に考えるというのは、文章で読むと当たり前に見えますが、当事者になると忘れがちなことだと思うので、うまくいっていないなと感じたらまずはこのことを思い返すようにしてみます。

これはついでの話なんですが、ROUTE06のリーダーやマネージャは、自分の持っている裁量を理解してやるべきことを遂行していると強く感じています。2年の間、業務委託として仕事をしていましたが、リーダーやマネージャーが決めるべきことをすぐに決めていて、とても仕事がしやすかったです。そういうリーダーになりたいですね。

おまけ: 目的を見失わない

チーム作り頑張るぞ、リーダー頑張るぞという話を書いてきたのですが、それは手段であって目的ではないですね。目的は「チームのアウトプットを最大化させ、チームに期待させれているミッションを達成すること」です。

いろいろ本を読んで、知識が増えて、こうして紹介する記事を書いているのですが、実は途中で目的を見失っていました。当事者になるといろいろ見えなくなるものですね。そんな時に、たまたま見た動画で目的をハッと思い出したので最後に紹介します。

【勝つチーム】大事な場面で「結果を出せる人」だけが知っている法則
https://www.youtube.com/watch?v=pNmiDHBaTgY

動画の中で、岡田武史さんが「勝つチーム」と「チームの一体感」についての関係を説明しているところが素晴らしかったので引用します。

勝つチームを分析すると一体感がある。ところが、チームを作るとき一体感から作ると大体失敗する。なぜなら一体感が目的になっているから。(中略)そうではなくて勝つという目標に向かってお互いに違う役割、違う性格を認め合って力を合わせて結果が出だすと一体になる。/ 岡田武史(株式会社「今治.夢スポーツ」会長)

チームのことを色々考えても、目標は何かを忘れてはいけないですね。また、岡田会長の言葉にある「結果が出だすと一体になる」というのはチームを作っていく上大きなヒントになりそうです。例えば1年を超えるプロジェクトのチームで、結果が見えて(その評価がされる)までに1年かかると、そこまでモチベーションを維持する必要があり、かなり大変です。できれば2ヶ月や3ヶ月単位で結果が見えて評価(全体のスケジュールに対してどうか、品質はどうか、など)したいですね。そして、そこで良い結果を出すことでチームがまとまって、より良い結果を出していけそうですね。

我々のチームも2ヶ月後までに結果を出すべきものがあるので、まずはそこに向けて注力したいと思います。

*1:正確にはテックリードなのですが、他にチームのリーダーがいるわけではないので、できることはなんでもやっていこうと思っています。

*2:10人チームは7人分 | 桜井政博のゲーム作るには https://www.youtube.com/watch?v=smOaD_uEWrc

*3:Scaling People https://press.stripe.com/scaling-people

*4:The Art of Gathering https://www.amazon.co.jp/Art-Gathering-How-Meet-Matters/dp/0241973848

*5:最高の集い方 https://www.amazon.co.jp/dp/B07YTXML3Y